2021年4月より当院の臨床検査部超音波診断室は医療教育局小児超音波診断・研修センターにリニューアルされました。
呼称が変わっただけで中身は一緒ではないか?
いえ、違います。大きく変わりましたので、ここで、小児超音波診断・研修センターについてご紹介させていただきます。
超音波(エコー)は被曝がなく、非侵襲性でどの場所でも繰り返し施行することが可能なこどもに優しい画像診断法です。検者の技量にもよりますが多くの画像情報を得ることが可能で、当院では平日の診療時間帯にとどまらず、遠隔診療システムの導入で24時間365日いつでも対応しています。機動性に優れている点からも小児領域では特に有用であることは周知の事実と思われます。
しかしながら、画像診断法の第一選択であるべきエコーが成人領域と比べ、明らかに普及が遅れていると感じています。
過去の日本超音波医学会のシンポジウムでも取り上げられましたが、小児エコーが未だに発展途上である理由として、
- 小児の発育変化: 0~15歳までを小児領域とした場合、臓器は年齢とともに刻々と変化するため、検者は年齢相応の正常値と計測値との比較や、生理的変化を評価しなければならない。
- 小児では先天性疾患の占める割合が多い。
- 年齢による疾患頻度の違い: 急性腹症になかでも消化器疾患(腸回転異常、消化管閉鎖、腸重積など)は発症年齢の中央値が異なるなど、年齢に応じて鑑別すべき疾患が変化する。
- 迅速かつ的確なジャッジが求められる:成人に比して病勢の進行が速い小児科領域でエコーは治療方針に直結しうる重要な役割を果たしうるが、同時に検者には大きなプレッシャーとなりうる。
このような理由が超音波を施行することに躊躇し、結果として小児エコーが第一選択と確立されていない大きな要因になっているのではと考えています。
私は小児超音波に従事して以来、エコーの走査技術および画像解析技術と身体診察所見をマッチさせた超音波診断技術、いわゆる「小児臨床超音波」を後進に広めることが今後の小児腹部超音波の普及につながると確信しております。
エコーを施行する検者に求められる技術とは?
- 超音波機器の取り扱いに精通し、スペックを最大限に活用することができること。
- 解剖学を熟知するとともに、エコーによる限界も周知して走査すること。
- 記録された情報をレポートとして記載できること。
エコーはどこで学ぶのか?
残念ながらエコーを「独習」することはかなりの困難が伴うと考えます。
エコーといってもカテゴリーは広く、対応する診療科は消化器科、循環器科、腎臓内科、泌尿器科、外科、血液腫瘍科、新生児科など多岐にわたります。
したがいまして、小児エコーの技術を研鑽するためには「学ぶ環境」が重要となります。
当院の小児超音波診断・研修センターは「学ぶ環境」が相当に整ってきているのではないかと自負しています。
- エコーは24時間365日対応しており、平日の時間帯は多くの症例を一定期間に集中して経験できる。
- エコーの画像解析を専門的に行い、指導者から検者にフィードバックがされるシステムが構築されている。
- 患児およびご家族を不安にさせないために、常にコミュニケーションをとり、安心感を担保できる指導者がいる。
- 当センターでは、エコー所見とマクロの対比を重要視しているため「手術見学」を奨励している。
エコー技術を習得するために必要な研修期間はどの程度か?
現在、当院の後期研修医は全員、研修期間中2~3ヶ月間のエコー・プログラムに基づいて研修を行っております。
3ヵ月間のエコー・プログラムを終了した研修医はここ3年間、全員「浅井塾免許皆伝者」となっています。
「浅井塾免許皆伝」を習得すると、どのようなことができるようになるのか?
- 急性虫垂炎の診断はエコーのみで可能となる。(例えば虫垂炎診療ではCTは99%撮像していません)
- 精索捻転はエコーのみで診断が可能となる。
- 腎所見で急性腎盂腎炎と診断した場合の正診率がほぼ100%である。
- 頚部腫脹の鑑別診断の正確度は90%以上となる。
- 細菌性腸炎、ウイルス性腸炎の鑑別診断が可能となる。
- 中腸軸捻転の診断を確実に行える。
など。
「浅井塾免許皆伝」後、3年の実務経験でどこまでエコーのみでコメントできるようになるか?
- エコーのみで急性虫垂炎のgrade及び治療方針が決定できる。
(CTは99%撮らない) - 腸重積はどのくらいの圧で整復可能か予見が可能
(できる場合は最低150cm溶液柱までは担保する) - 精索捻転は診断のみならず、救済可能の有無まで言及。(術中エコーで除睾の有無を決定)また、急性陰嚢症の US の正確度、特異度は、ともにここ3年間 100%
- エコーでVURを示唆する所見があればVURの正確度は90%以上である。(VCUGで確認)
- 卵巣茎捻転、卵胞出血、子宮内膜症の鑑別診断ができる。
- エコーでIgA血管炎と診断した時の正診率は100%である。
- 咽後膿瘍、扁桃周囲炎をエコーで診断することが可能となる。
- 絞扼性イレウス(腸閉塞)など、喫緊性のある病態を逃さず外科へコンサルとすることができる。
当センターの今後の戦略
- 後期研修医を中心に「エコーを依頼する側」から「エコーを受ける」小児科医・小児外科医の育成を目指す。
- 小児地域医療の課題である「救急医療」をバックアップする目的で、小児超音波遠隔支援システムを構築する。
- NPO法人茨城こどもECHOゼミナールとタイアップし、小児医療従事者に対して「小児超音波の有意性」を広く推し進めていく。
研修制度
当院は日本超音波医学会認定の研修施設となっております。
3年間の実務経験で「日本超音波医学会認定超音波専門医受験資格」が得られ、国内では例をみない本格的な「小児超音波人材育成」を積極的に行っております。
当院に後期研修医として在籍しますと、基礎から応用まで系統的に研修を受けることができます。
また、院外の方もエコー研修を受けることが可能です。
1日見学から1~2週間、1ヶ月、6ヶ月研修(有給)と各コースをご用意しております。詳しくは n-asai@ibaraki-kodomo.com 浅井 宣美 までご一報ください。
最後に
当院小児超音波診断・研修センターのスタッフをご紹介します。