小児総合診療部(2022年度)

2022年度の総合診療科スタッフは泉維昌部長(腎臓膠原病科・内分泌代謝科兼任)、田中竜太医師(神経精神発達科科長)、小林千恵医師(血液専門)、福島富士子医師(神経精神発達科兼任)、本山景一医師(救急集中治療科兼任)、齊藤博大医師(消化器肝臓科兼任)、石井翔医師(感染症科兼任)、本間利生医師(救急集中治療科兼任)、弘野浩司医師(超音波診断室兼任)が継続的に診療を行うことができ、さらにスタッフ間連携・非常勤医師との連携が強固なものとなり、さらに「よりよい総合的な小児科診療」を行える環境が充実し、小児医療に従事することができた。

当院小児総合診療科の特徴は、小児疾患の大部分の疾患を扱っており、さまざまな専門診療部と連携をとりながら診療を行っていることである。呼吸器疾患では市中肺炎・気管支喘息発作、集中治療の必要な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、重症心身障害児の肺炎などを、循環器疾患では心肺停止症例、川崎病の診断、重症心身障害児の慢性心不全などを、神経・筋疾患では急性脳炎・脳症、痙攣重積などの急性期疾患、ギラン・バレー症候群などの脊髄疾患、ミオパチーなどの筋疾患などを、血液腫瘍疾患では急性白血病、血管肉腫、神経芽腫、特発性血小板減少症などを、消化器肝臓疾患では細菌性腸炎、腸重積症、炎症性腸疾患、急性肝不全、慢性肝不全などを、腎泌尿器疾患では急性腎不全、尿路感染症、ネフローゼ症候群、IgA腎症などを、アレルギー疾患ではアナフィラキシーなどを、代謝内分泌疾患では糖尿病性ケトアシドーシス、1型糖尿病、副腎不全などを、自己免疫疾患ではIgA血管炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、若年性特発性関節炎などである。このように多種多様な疾患を総合診療科が中心となり診療をしている。また、外傷診療(多発外傷、重症頭部外傷を含む)や熱傷診療に対しても救急集中治療科、整形外科、脳神経外科、水戸済生会病院形成外科と協力し総合診療科で全身管理を行っている。

外来診療においては、ひきつづき多数の非常勤医師のご協力をいただいている。内分泌代謝科は泉維昌部長と外来非常勤医師として小笠原敦子医師(東邦大学客員講師)が内分泌全般を、岩淵敦医師(筑波大学小児科講師)が主として糖尿病外来を担当した。アレルギー外来は黒田わか医師、鬼澤裕太郎医師(鬼澤ファミリークリニック)が担当した。腎臓外来は、泉維昌部長、齊藤綾子医師、五十嵐徹医師(日本医科大学講師)・酒井愛子医師(国立国際医療センター)が担当した。消化器肝臓外来を田川学医師(筑波大学小児科講師)が齊藤博大医師とともに担当した。

2022年度もCOVID-19による診療体制および協力体制の構築の継続が必要であった。2020年度よりCOVID-19感染症による救急外来診療および入院診療の変革を継続的に行い、2022年度には行政機関とのかかわりをより密に対応することで、予防接種事業や小児コーディネーター事業を中心に「県立こども病院として県内の子供たちへ奉仕する」精神を皆で持つことができ貢献できた。

  1. COVID-19感染症に対する診療体制および協力体制の継続、予防接種事業への参画
    2020年度よりCOVID-19感染症に対する小児診療体制および協力体制を継続して行うことが必要となり、ひきつづき本山医師・石井医師が中心となって、院内の各部署との連携をとることができた。対外的には小児コーディネーターとして本山医師、齊藤医師が県・入院調整本部と連携しながら、保健所と協力体制を築き、総合診療科医師・小児科専修医を中心にCOVID-19診療を行った。また、県内の他地域の医師とも詳細な情報交換を行いCOVID-19診療体制の構築に携わった。
    また、行政との連携のためにひきつづき事務局の貢献は欠かすことができず、そのうえで行政からの依頼・対応を継続的に行うことができた。
  2. 初期研修医・小児科専攻医教育の継続
    協力型臨床研修病院として、筑波大学、茨城県立中央病院、水戸医療センター、水戸協同病院、筑波記念病院からひきつづき総合診療科で1-3か月単位で初期研修医を受け入れている。
    カリキュラムとしては、毎朝小児科全体ミーティングで前日の時間外救急診療の報告と症例検討をおこなった。火曜は8:00より新着文献の抄読会を輪番制で行い、木曜は8:00から主に複雑症例・重症症例の症例検討、または初期研修医の経験症例を発表する場とした。金曜日は8:00から9:30まで小児科全体の入院患者についてICU,混合病棟、血液腫瘍病棟の3つを回診した。ここで症例提示能力を鍛錬され、検査計画、治療計画の問題点についても整理することができる。
    その他に総合診療科は午前に前日、前夜の入院症例を中心の回診を行い、夕方には当日の経過と治療計画について討議する時間を持った。研修医教育を念頭においてプレゼンテーション、治療計画について発言を求めるように努めた。研修修了時に自己評価票とアンケートに記入するようになっている。
    当院では前述したように総合診療科が小児疾患の大部分の疾患を扱っており、初期研修医や専攻医の研修に適合した体制としている。
  3. 小児科の一般外来診療・感染症外来の実施
    当院一般外来・急患外来および感染症外来は、基本的には特定の専門診療部以外(血液腫瘍科、循環器科以外)の紹介をすべて受け付けた。緊急性の高い痙攣性疾患などは救急車での来院も多く、救急車対応は重要な役割であり、また初期研修医・小児科専攻医教育を兼ねている。感染症に関しては感染症外来として特化した外来を午前・午後ともに設置している。また、呼吸器、アレルギー、消化器肝臓、代謝内分泌、腎臓、新生児科退院後、神経精神発達科外来通院中などの患者の臨時の受診に対応しており診療に当たる。他院から紹介される患者も多く、初診・初療は総合診療科で対応することがほとんどである。
    夜間や休日の時間外のいわゆる救急患者は当直医が診療し、入院した場合は総合診療科が担当することが多い。症状によっては専門診療部や外科系への振り分けを行っている。
  4. 小児科の一般入院診療の実施
    前述したとおり小児疾患の大部分の疾患の入院加療を当科で行っている。専門診療部との連携は不可欠であり、入院後もさまざまな科との連携を大事にしながら加療を行っている。また退院後の外来での診療の継続も心がけており、さまざまな合併症を抱えている患児(特に重症心身障害児)については総合診療科でもひきつづき診療している。また、血液悪性疾患についても初発の急性白血病診療については当科で診療している。
  5. 小児救急医療・小児集中治療の充実
    県央県北地域における唯一の小児3次医療機関として自動的に集約化された救急医療・集中治療を総合診療科中心に担ってきた歴史を持つ。2019年度より救急集中治療科も再設され、救急診療の質の向上と標準化、システム作りに指導的な役割を果たしている。年間救急車受け入れ台数は1800台を超え、病床115床の小児専門病院として異例の多さである。軽症から重症まで幅広く受け入れており、地域のニーズに応えるとともに研修医にとっては経験を積む良い機会になっている。地域のドクターヘリやドクターカーと連動した外傷診療の機会も多く、多科連携におけるリーダー役を務めている。また、他院からの搬送依頼に対しても柔軟に対応している。今後は迎え搬送やドクターカーなど病院前治療にも一定の役割を果たせることを目標とする。
    当院ICUはオープン~セミクローズドの形態を取っており、基本的には主科により全身管理が行われてきたが、前述のとおり2019年度より救急集中治療科が再設され、ICUでの管理の標準化や質の向上、ハード面の改善を担っている。総合診療科は救急集中治療科と緊密に連携しながら、救急外来より緊急入室する重症患者の全身管理のみならず各専門科が主科となる患者の術後管理のサポートや院内急変対応とその後の管理まで行っている。2022年度からはRRS(Rapid Response System)を稼働することができ、重症化する前からの介入・全身管理への移行を目指して活動している。
    救急集中治療において、不幸な転機をたどる児とその家族に対してのサポートや死因究明でも、他機関や多職種との連携の中心になる機会が多くなっている。
    上記のような科の壁に捉われない形での急性期医療全般を担っていることは、当院の総合診療科の大きな特徴である。また、教育にも力を入れており、救急、集中治療のそれぞれの場面を想定したシミュレーションを定期的に開催している。
  6. 小児虐待対応(成育在宅支援室の項も参照)
    小児医療において虐待診療のウェイトは年々増加しており、その質を担保することが求められている。外来、入院を問わず虐待やマルトリートメントが疑われる児を見付け、チーム対応につなげる役割を担っている。特に救急外来において身体的虐待やネグレクトにきちんと対応できるように教育を行っている。また、家庭支援や被虐待児のフォローアップの役割を担うことも多い。多機関との連携も非常に重要で、児童相談所や警察から求められて虐待が疑われる児の診察や鑑定を行う機会も増えている。泉医師、本山医師は立ち上げ時より院内虐待対策チームを運営しており、虐待対策基幹病院の総合診療科として地域の虐待対策の中心を担うことも多い。他機関向けの講演も行っている。本山医師は中央児童相談所の一時保護所の嘱託医として往診も行っている。
  7. より専門的な検査の充実・継続(小児消化管内視鏡検査・経皮的腎生検・肝生検の継続)
    2019年度よりさらなる専門的な検査の充実を目指し継続することができている。消化管内視鏡検査は年平均120-130件となり、ひきつづき内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)・小腸カプセル内視鏡検査も含めて積極的に施行していく。また経皮的腎生検・肝生検も継続して行っており、より専門的な検査の充実・継続を目指していきたい。
【2022年度の総合診療科、神経精神発達科入院患者の一覧(新入院患者1302人)】
入院の契機となった病名人数
神経筋疾患(急性脳症、髄膜炎含む)287
呼吸器疾患(耳鼻咽喉領域含む)274
血液腫瘍疾患152
消化器肝臓疾患(胃腸炎含む)161
外傷(虐待、骨折、頭蓋内出血含む)・中毒・熱傷102
腎泌尿器疾患(尿路感染症含む)74
代謝内分泌疾患44
自己免疫・アレルギー疾患43
循環器疾患(来院時心肺停止含む)19
皮膚・骨疾患など(蜂窩織炎、筋膜炎、骨髄炎含む)18
その他(新生児発熱など)27
COVID-19101

(文責:小児総合診療科医長 齊藤 博大)