小児血液腫瘍科
2022年度は、吉見、加藤、小池、土田のスタッフ4名で診療をした。加藤、吉見、小池、土田が外来を担った。また吉見、加藤の2名で入院診療を担った。これらのスタッフにより造血器腫瘍の化学療法や造血細胞移植を要する造血器疾患、固形腫瘍、血液疾患の治療にあたった。化学療法を受ける脳腫瘍の症例を脳神経外科とともに、脳腫瘍以外の固形腫瘍は小児外科、小児泌尿器科ととともに治療した。なお造血器腫瘍の症例数の増加に伴い一部の症例は総合診療科が受け持った。
れらに加えて日本小児がん研究グループの臨床研究を実施した。日常の臨床の成果と小児・がん研究センターで行っている細胞生物学的分子生物学的研究の成果を積極的に学会や論文で報告した。
- 症例
腫瘍性血液疾患・固形悪性腫瘍(表1)
2022年度の新規紹介・入院患者は 7例であった。内訳は、造血器腫瘍2例、固形腫瘍5例であった。小児外科、小児泌尿器科、小児脳神経外科とともに治療にあたった。固形腫瘍の症例については関係各科が集まるtumor boardにて治療方針を決定した。
非腫瘍性血液疾患(表2)
新規良性疾患は8例である。まれな疾患の紹介があった。
造血幹細胞移植(表3)
造血幹細胞移植は12件であった。移植ソース別では、血縁者間移植6件、非血縁骨髄移植3件、自家造血細胞移植が3件である。
多型マーカーをPCR法とキャピラリー電気泳動を用いて解析するキメリズム解析を院内で実施できる体制を整え同種移植症例全例に実施した。特に非造血器腫瘍症例で生着の有無を早期に判別できるため治療方針の決定に有用であった。
移植後100日以内の早期死亡は1例であった。造血器腫瘍の症例は全例で前処置を軽減した。不妊や低身長といった晩期合併症を軽減するために前処置を軽減した前処置軽減同種造血細胞移植は当院の標準的な移植法となりつつある。しかし放射線照射やブスルファンの投与といった不妊をもたらす可能性のある処置を全廃することができていない。
移植成績については積極的に学会に報告した。また全国的後方視的調査研究に資する日本造血細胞移植学会データベースTRUMPに移植経過を登録した。 - 骨髄バンク事業
小池が骨髄バンクドナー候補への健康診断と最終同意面談を行うなどのドナーコーディネート事業を担った。また移植骨髄の採取を小池が、移植末梢血を加藤と吉見が採取した。重大なインシデントは生じなかった。 - 日本小児血液学会・がん学会、日本造血細胞移植学会、地域がん登録・院内がん登録の登録事業に参加し、小児血液疾患・固形腫瘍、移植症例の登録を行った。また日本小児がん研究グループ(JCCG)の臨床研究に参加し、症例を登録し、治療計画に基づき実際の治療を実施した。加藤はJCCGのPh1ALL小委員会、ALL小委員会、神経芽腫委員会、分子診断委員会に参加し、臨床研究の計画立案に関わった。また加藤は日本造血細胞移植学会のドナー別と小児ALLと小児AAの各ワーキンググループに参加し、日本造血細胞移植学会の登録データ(TRUMP)を解析した。小池、加藤が医療秘書の助けを得ながら日本小児血液学会・がん学会、日本造血細胞移植学会、地域がん登録・院内がん登録を担当した。
- 先天性凝固障害
小池が毎週水曜日血友病外来を開き、血友病担当看護師とともに継続的な血友病患者さんへの診療にあたった。成長に合わせ定期補充療法導入(1歳~)、在宅注射開始(2歳~)、自己注射導入(10歳頃~)成人医療への移行プログラムといった流れで指導した。 - 多施設共同臨床研究の院内研究審査委員会への申請と実施
新臨床研究法の施行に伴い、日本小児がん研究グループの多施設共同臨床研究が中央研究審査委員会(CIRB)で審査承認される事例が増えた。代わりに院内の研究あるいは論文報告の際に院内研究審査委員会(IRB)での承認が要求されるようになり、院内IRBへの申請が増えた。 - 分子生物学的診断・細胞生物学的分子生物学的研究
加藤が小児がん研究室にある遺伝子解析設備を用いて分子生物学的診断にあたった。まれな白血病、まれな腫瘍の病態や診断を明らかにするために細胞生物学的分子生物学的研究をした。まれな白血病や腫瘍の腫瘍細胞株を樹立し、腫瘍発生あるいは再発にかかわる遺伝子変化を明らかにした。細胞生物学的分子生物学的研究の成果については学会や論文に報告した。
No | 入院月 | 年齢 | 性別 |
1 | 2022/05 | 1 | 男 |
2 | 2022/05 | 5 | 女 |
3 | 2022/06 | 10 | 男 |
4 | 2022/09 | 2 | 男 |
5 | 2022/10 | 6 | 女 |
6 | 2022/12 | 17 | 男 |
7 | 2022/12 | 5 | 男 |
No | 受診月 | 年齢 | 性別 |
1 | 2022/05 | 2 | 男 |
2 | 2022/06 | 4 | 女 |
3 | 2022/06 | 14 | 女 |
4 | 2022/06 | 0 | 男 |
5 | 2022/07 | 0 | 男 |
6 | 2022/10 | 11 | 男 |
7 | 2022/11 | 5 | 女 |
8 | 2023/03 | 0 | 女 |
No | ドナー | 移植月 | 年齢 | 性別 |
1 | 自家末梢血 | 2022/04 | 15 | 男 |
2 | 血縁末梢血(父) | 2022/04 | 4 | 男 |
3 | 自家末梢血 | 2022/06 | 6 | 男 |
4 | 非血縁末梢血 | 2022/07 | 10 | 男 |
5 | 血縁末梢血(父) | 2022/07 | 3 | 女 |
6 | 非血縁末梢血 | 2022/09 | 12 | 女 |
血縁末梢血(父) | 2022/09 | 1 | 男 | |
8 | 自家末梢血 | 2022/10 | 12 | 女 |
9 | 血縁骨髄(同胞) | 2022/12 | 11 | 女 |
10 | 血縁骨髄(母) | 2023/02 | 6 | 男 |
11 | 血縁骨髄(同胞) | 2023/03 | 12 | 男 |
12 | 非血縁骨髄 | 2023/03 | 6 | 男 |
(小児専門診療部長 加藤 啓輔)
小児循環器科
スタッフ4名(塩野、林、矢野、堀米)と後期研修医のローテーターで診療にあたった。
外来診療は、月曜、水曜、木曜それぞれ午前・午後の枠組みで行った。入院を含む初診患者は500例であり、総数は例年と大きな変わりはなかった。内訳は表1の通りである。外来診療は一部コロナ特例による電話再診を継続した。
心臓カテーテル検査は、例年通り週2回(火曜日と金曜日)の体制で施行した。総数は72件であり、前年度より減少した。今年度も新型コロナの流行のために待機的な入院を延期せざるを得ない時期があり、減少傾向が続いている。カテーテル治療は21件で大きな減少はなかった。内訳は血管形成術11件、弁形成術4件、心房中隔欠損作成術3件、コイル塞栓術2件などであった(表2)。
心エコーは2,551件、胎児心エコーは103件であった。その他検査では、ホルター心電図118件、トレッドミル負荷心電図35件であった。トレッドミルはコロナ禍以降少なめの傾向が続いている。心臓MRIは14件であった。
本年度も学校心臓検診への協力を行った。茨城県総合健診協会の一次・二次検診の他、水戸市の一次検診の判読に参加した。
(第一医療局次長 塩野 淳子)
先天性心疾患 | 106 | 不整脈・心電図異常 | 142 |
心室中隔欠損症 | 36 | 心室期外収縮 | 20 |
心房中隔欠損症 | 9 | 上室期外収縮 | 14 |
動脈管開存症 | 6 | 上室頻拍 | 4 |
房室中隔欠損症 | 1 | 心室頻拍 | 1 |
ファロー四徴症 | 1 | WPW症候群 | 11 |
両大血管右室起始症 | 3 | 心房粗動 | 1 |
大動脈縮窄複合・大動脈離断複合 | 2 | 完全房室ブロック | 1 |
大動脈縮窄症 | 1 | 1度・2度房室ブロック | 2 |
完全大血管転位症 | 3 | 接合部調律、房室解離 | 3 |
修正大血管転位症 | 1 | QT延長 | 21 |
総肺静脈還流異常 | 1 | ブルガダ症候群(ブルガダ型心電図) | 3 |
総動脈幹症 | 1 | 右脚ブロック | 30 |
肺動脈閉鎖 | 2 | 洞不整脈 | 8 |
左心低形成症候群 | 1 | 軸偏位 | 3 |
三尖弁閉鎖 | 1 | その他心電図異常 | 20 |
Ebstein病 | 2 | 後天性心疾患 | 45 |
内臓錯位症候群 | 2 | 川崎病 | 41 |
血管輪 | 1 | 小児COVID-19関連多系統炎症性症候群 | 2 |
肺動脈弁狭窄・末梢性肺動脈狭窄 | 15 | 拡張型心筋症 | 1 |
大動脈弁狭窄 | 1 | 急性心筋炎 | 1 |
大動脈弁閉鎖不全 | 2 | その他 | 165 |
僧帽弁閉鎖不全 | 2 | 機能性心雑音 | 85 |
三尖弁閉鎖不全 | 3 | 特発性胸痛 | 13 |
卵円孔開存 | 9 | 起立性調節障害・失神 | 6 |
胎児診断 | 42 | 高血圧 | 3 |
先天性心疾患 | 24 | 肺高血圧 | 2 |
心臓腫瘍 | 1 | 胸郭変形 | 1 |
胎児不整脈 | 4 | 筋疾患 | 4 |
正常心(スクリーニング等) | 13 | マルファン症候群(類縁疾患) | 7 |
その他(スクリーニング等、正常心を含む) | 44 | ||
合計 | 500 |
術式 | 件数 |
血管形成術 | |
肺動脈 | 8 |
上大静脈 | 3 |
弁形成術 | |
肺動脈弁 | 4 |
心房中隔欠損作成術 | 3 |
コイル塞栓術 | |
動脈管開存症 | 2 |
緊急ペーシング | 1 |
合計 | 21 |
小児神経精神発達科
当科の2022年度の診療は、常勤医師(田中、福島、岩渕、塚田)4名、非常勤医師(川嶋、岩崎、大戸、榎園、西村)5名によって担われた。
当科は、扱う疾患の性質上、外来診療の比重が特に大きい。2022年度の当科の外来診療延べ人数は6286(前年度-169)人、うち初診は233(前年度-8)人であった。疾患の内訳は、てんかんと発達障害が大半を占める。当院は、厚労省研究班によって運営されるてんかん診療ネットワークの二次診療施設に該当し、てんかん初発・発作反復例に対して適切な診断・治療もしくは診療の方向づけを行い、難治例を三次診療施設に紹介する役割を担っている。多剤服用が必要な場合は新規抗てんかん薬を積極的に導入し、頻回に発作を有する場合は発作時脳波記録をもとに抗てんかん薬を調整した。
外来診療における新患の多くが発達障害であった。発達障害は、教育機関からの紹介が増える傾向にあり、二次障害が顕在化して高学年で気づかれたり複雑な家庭背景を抱えたりする難治例が多かった。中核症状や併存症(過度の攻撃性や睡眠障害など)に対する薬物治療を行い、認知行動特性の詳細な評価、家族支援、学校や関連機関との連携を臨床心理士、ソーシャルワーカーとともに推進した。
新生児科から紹介を受けた脳性麻痺のハイリスク乳児例については、神経学的評価や薬物治療を行い、リハビリテーション科に発達支援(障害固定前の早期介入)を依頼した。結節性硬化症などの多臓器に合併症を持つ疾患においては、血液腫瘍科、小児外科、脳神経外科などと連携して治療を行った。
入院診療においては、けいれん性疾患、脳炎・脳症などの中枢神経感染症、重症心身障害などの症例に対して、主に総合診療科と協力しながら治療を進めた。難治な経過や原因が不明の症例については、入院のうえ原因精査や特殊治療を行った。急性脳症など後遺症を残す可能性がある疾患については、リハビリテーション病院と連携し対応した。
田中 | 検査科と協働し、脳波検査の整備を行った。外来看護師と協働し、成人科への移行支援を行った。教育機関からの依頼で、困難を抱える児童の相談業務を請け負った。 |
福島 | 漢方外来・勉強会(川嶋医師)の立ち上げに貢献した。 |
岩渕 | 地域の医療機関と協力して、成人科への移行やリハビリテーションの連携を推進した。 |
塚田 | 急性期医療や終末期医療を中心に総合診療科と連携して取り組み、後輩の育成にも精力的に携わった。 |
今後は、急性期から慢性期、終末期におよぶ全人的な診療、新たな治療法が見出されている神経疾患の早期診断や先進医療を推進していくとともに、かかりつけ医や他機関と連携しながら、発達障害、てんかんなどの診療体制づくりを進めていく予定である。
(小児専門診療部副部長 田中 竜太)